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フロベールの鸚鵡
ジュリアン・バーンズ
訳:斉藤昌三



原題
「Flaubert's Parrot 」1989年 白水社

題名のフロベールとは、かの「近代リアリズム小説の巨匠」、「現代小説の先駆者」のフロベールのことです。
代表作は「ボヴァリー夫人」…くらいは高校生でも知ってるよなあ、試験問題にも出そうだし。
でもこの「ボヴァリー夫人」をちゃんと読んだことある人ってどのくらいいるんだろ。かくいう犬もこれを読んだのは学校を終わって随分たってからだったけど。なんかね、リアリズムとか先駆者とか、ひいちゃう文句がつきまとうのがいやな感じだよね。そんな形容されたら誰も読まないよね。…でも。
面白いのよーこれが!意外と!今読んでも。

で、フロベールは置いといて、と。
「フロベールの鸚鵡」は、もちろんフロベールについて書かれた小説なんですが、たぶんフロベールを読んだことない人が読んでもじゅーぶんに楽しめる…と思う。なにせ要は、
マニアって奴ぁよおー!!
…って笑える話なので。

どうして人は好きな作家、俳優、ミュージシャン、スポーツ選手等々の私生活や私物に興味津々なんだろう。その作品や試合でのプレーだけじゃ満足できないのね。よりプライベートな部分で意外な一面を見いだしたりする喜びとか、同じ持ち物を身につける嬉しさとか、相手にのめりこむほどに妙な没し方をしはじめたりするのは、どうも世界万人共通項のようで。
この「フロベールの鸚鵡」の主人公たる立派なイギリス紳士もフロベールを対象としてこの罠にスッポリ落ち込んでもがき苦しんでいるのです。年表を作り、誕生の地や作品の舞台とされている場所を巡り、まぼろしの書簡を手に入れようと胸躍らせ、パロディを自ら書き、酷評する評論家にムキになって反論し…、もう涙ぐましいほど一途で、笑える。

笑えるんだけど、コワイのは適当な対象さえあれば自分にもこういう行為に至る可能性が絶対あるに違いないってことに気付かされること…。
どうなってるんでしょうねえ、人のココロって。ふしぎ。

ジュリアン・バーンズは「10 1/2章で書かれた世界の歴史」や「太陽をみつめて」など、ハズレのない面白い作品を書く作家ですが、そのあまりに隙の無い書きっぷりからは想像できないような私生活をおくってるんじゃなかろか、と、だれか家宅侵入してくれないかなあー。



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