チルー
別名チベットカモシカ、チベットレイヨウ。
オスのツノは長くてかっこいい!


チルー
Chiru(英)
Chiru,Orongo(独)

《学名》
Pontholops hodgsoni
Pontholops=「まったく泥だらけ」
hodgsoni=人名から

《亜種と分布》
亜種はない。
中国のチベット高原〜インドのラダク地方北部。
標高3700〜5500mの高山帯の草原や谷に棲む。

《食性》
主には高山ステップ地帯のイネ科草本類、広い葉の草本類。

《体格》
オスは細くすらりと真っ直ぐ伸びるツノをもつ。おとなのツノは70cmにもなる。メスにはツノはない。
おとなで頭胴長120〜140cm。背までの高さはおとなで約80cm。おとなの体重は40〜50kg。

《チルーの生活》
チルーは分類学的にはサイガに非常に近い動物で、主に日中に行動し、自分で堀った穴に身を沈めて休みをとります。これは外敵であるオオカミから身を隠すためであり、また生息地に吹き荒れる激しい風を避けるためでもあります。オスとメスは別々に群れをつくって暮らします。通常10頭〜20頭の群れですが、多いときは200頭にもなることがあります。エサ場を求めて季節的に移動をくりかえします。
メスはオスよりも少し体格は小さく、角がありません。
そけい腺から臭いのある分泌液を分泌します。
どこでも散糞をします。
発情期には1頭のオスに対して10〜20頭のメスのハーレムがつくられ、11〜12月に交尾をして、翌年の5月にこどもを出産します。 ハーレムを統率するオスは、メスたちを守るためこの間はほとんどエサを摂りません。また、ハーレムをおびやかすオスが近づいてくると、その長いツノで烈しい戦いを繰り広げます。

チルーの生息地域は、標高5000m級の高山地帯の秘境と言われる場所で、なおかつ、政治的にも孤立した地域ということから、詳しい生態や生息数はほとんどわからない状態です。この生息地域以外の場所に持ち出されたこともありません。
昔から、チルーの肉は味がよいということで人間に狩られ、非常に臆病で用心深い動物になり、生きたチルーを間近で撮った写真はほとんどありません。


◆ チルーについて ◆

生態も総生息数もなにも詳しいことのわかっていないチルーですが、一つだけ明らかなのは、1990年代半ばからその頭数は激減しているということです。その理由も明らかです。
チルーがその過酷な生息環境で生き抜いていくために絶対必要な、軽くて暖かいその毛皮を人間たちが欲しがるからです。しかも、価値があると見なされるのは首回りの長い毛だけ。1頭でわずか100gとれるかどうかの毛を得るために、人間たちは密猟という手口で、一度に数十頭から百頭以上のチルーを殺戮しているのです。もちろん肉は食べません。必要なのは「毛」だけ。酸素も薄い凍てついた平野に、ただ皮を剥がされただけのチルーの死体の山ができているのです。オスもメスも関係なく殺され、腹のなかに赤ちゃんがはいったまま皮を剥がれてうち捨てられたメスの死骸も数多くあります。

そこまでして獲った毛は
「シャトゥーシュ(shahtoosh)」とよばれる世界で最高級の毛織物になり、そのショールやコートは世界中のお金持ち、著名人らがステイタスの証として所有するのです。もちろんワシントン条約(CITES)によって1975年からチルーとその製品の国際取引は禁止されています。日本国内での取引も「絶滅のおそれのある動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)により禁止されています。「各界著名人がシャトゥーシュの取引中止を呼びかける」(1999/10/21)というような世論の高まりもあります。しかし、それでもチルーは密猟され毛織物は流通しているのです!

緑色北京 Save Tibetan Antelope という中国のサイトでは、皮を剥がされ放置されたチルーの写真を公開してその残忍な様子を伝え、密猟者の摘発の重要性を訴えています。
2000年には中国成都電視台が「チベットカモシカを守れ〜中国・密猟者との闘い」という140分のTVドキュメンタリー番組を制作し、日本でも放映されました。チベットの自然を文字通り命をかけて守ろうとした自然保護グループの戦いを記録したものです。
この番組から読みとれる背景はただ一点、あらゆる意味での「貧しさ」、です。
標高5000mの凍てついた土地をパトロールする自然保護グループのメンバーたちは、貧しい予算でまともな車もなく、わずか数丁の銃で密猟者たちと銃撃戦をくりひろげることもしばしばで、自然保護グループの最初の指導者は密猟者の銃撃で命を落としました。
密猟の現場を押さえられ逃げる密猟者を追跡するガソリン代もなく、もちろん食費もなく密猟者を監視するグループは餓死寸前まで追い込まれ、必死で政府に予算の追加を嘆願しますが、やっとのことで認可された予算は、いつのまにか誰か高官のもとに流れて消えてしまい末端組織にまでやってこない…。そんな政府の汚職と現地の窮状を公の場で口にしてしまった次の指導者は、何者かに頭を打ち抜かれて自宅の玄関前で殺されてしまいます。
チルーを守りたいという叫びは、政府批判にねじまげられ暗殺にまで至ってしまう・・そんな地域での自然保護・動物保護活動がどれだけ大変なものか、想像を絶する世界が現実にあるのです。
対峙する密猟者もまた貧しさの故、金になるなら密猟もやむなし、惨劇は繰り返されるのです。

密猟は悪い、けれど「チルーを殺しても金にならない」=「チルーを殺す意味がない」ことを、密猟者に認識させなければ、密猟はいつまでも続くでしょう。「誰もチルーを欲しがらない」ことが重要なのです。そしてそれはシャトゥーシュを欲しがる人々の認識を変えなければどうにもならないのです。
シャトゥーシュの販売は世界中の多くの国で禁止されています。しかし違法販売の摘発は絶えません。

Mainichi INTERRACTIVE 科学環境ニュース
絶滅危ぐ種・チベットアンテロープで高級ショール−業者が違法販売、国が中止指導−(←リンク切れ)

トラフィックイーストアジアジャパン
2001年7月9日 シャトゥーシュのショールが違法販売 国内初の摘発

チルーのショールを着ないと凍えて死んでしまう、そんなことはないでしょう。だから、けっして、まちがった見栄や優越感で、シャトゥーシュを欲しがったりしないでください。見向きもしないで下さい。
そして、生きて草原を走るチルーを想像してみてください。…心からのお願いです。


●リンクは勝手につけたものです。問題があれば外します。(まうご犬)


<追 記>
シャトゥーシュを売買することは罪なのだとわかってはいても、実際には見たことも触ったこともない毛織物が、「幻の毛織物」とも言われるシャトゥーシュなのかどうか判断するのはとても難しいことです。実際、取引が違法ではない「パシュミナ」という家畜のヒマラヤヤギの毛織物にチルーの毛を混ぜ「高品質パシュミナ」として販売されていた例もあります。一般消費者が知らないまま違法販売に荷担する状況もあり得るのです。では、どうしたらいいのか。
手にした毛織物が一体どういう動物の毛で織られたものかキチンと販売者から説明を受けてください。
10万円を超える高価な品は特に要注意です。必ず「どういう動物の毛か」確かめてください。

動物の肉体の部位を使った製品は多数ありますが、元がどういう動物で、どういう経路で入手できたものか、ちゃんと把握して使用する姿勢が必要です。「知らなかったから」という言い訳で希少な動物たちが絶滅に瀕することがないよう、責任を持って認識していただきたいのです。

WWFJapan>panda アンテロープの毛織物

チベットアンテロープのエステ通い、実は・・・・

<チルーの保護についての記事のあるサイト>
TRAFFIC
India's 'Say NO To Shahtoosh' campaign results in seizures
RSCN
WWFジャパン
The Tibetan Antelope Resource Page

<チルーの生態についてのその後の情報>

<チベットカモシカを保護> 「北京周報」2002年No.30
http://www.pekinshuho.com/JP/2002-30/china-30-1.htm

<西蔵>チベットカモシカが9万頭に増える 「人民網日本語版」2003年3月11日

西蔵(チベット)自治区林業局野生動植物保護処の卓瑪央宗処長はこのほど、「統計によると、西蔵区内のチベットカモシカの数は現時点で9万頭になり、増加に転じた」と述べた。
1997年に中国希少動物白書が発表したデータによると、当時、西蔵のチベットカモシカの数は5万頭足らずだった。このほか、青海は2万5千頭、新疆は1万5千頭だった。
中国特有の動物であるチベットカモシカは、国家一級保護動物に指定され、ワシントン条約でも保護されている。チベットカモシカの毛は生地が柔かく、保温性に優れた高価なストールの原料になるため、長年にわたり密猟が後を絶たなかった。 卓瑪央宗処長は「中国政府は西蔵にチベットカモシカ人工繁殖センターを設立する計画を進めている。計画が成功すれば、中国政府の『ジャイアントパンダ保護』に続くものとなる」と述べた。

<中国初のチベット・カモシカ「戸籍調査」> 「チャイナネット」2004年12月8日

チベット自治区関係部門によると、中国は初めてチベット・カモシカに対する「戸籍調査」作業を開始した。
「高原の精霊」と呼ばれるチベット・カモシカを救済し、高原生態バランスを保つため、2004年11月中旬から、20名の内外の学者、専門家、保護管理者が3組の科学調査チームを組織して、それぞれチベット自治区の不凍泉、楚瑪爾河(チュマル河)、雅瑪爾河(ヤマル河)から可可西里(ココシリ)の中心部に向かって挺進し、中国初のココシリ・チベット・カモシカの「戸籍調査」作業を行なった。この科学調査フィールドワークは二期に分けて実施される。チベット・カモシカは青蔵(青海・チベット)高原特有の希少な野生動物の代表で、20世紀初頭には120万頭を数える有力な動物種群であった。20世紀80年代末期以降、国際的なチベット・カモシカ毛織物貿易による消費が急増したため、チベット・カモシカは密猟の被害を受けて大量に捕殺され、数量が急激に減少して、絶滅に瀕する動物種となってしまった。
その後、長期間にわたって中国政府による一連の関連政策、法律、法規措置の実施により、法に基づく密猟犯罪取締りが強化された。この結果、チベット・カモシカ密猟活動は有効に抑制されると同時に、チベット・カモシカなどの野生動物の生存環境は有効に保護されるようになっている。

<ココシリのチベットカモシカ、4万余頭に復活> 「チャイナネット」2005年3月15日
ココシリ国家級自然保護区管理局の才?(ツァイガ)局長はこのほど、「ココシリ・チベットカモシカ調査の第一段階業務が今年1月に終了し、初歩的統計ではココシリ・チベットカモシカの群頭数は4万3千余頭に達している」と語った。生態環境の悪化、特に密猟犯罪が発生するため、1998年には、チベットカモシカ生息地の一つであるココシリ地区のチベットカモシカ頭数は2万頭を割り込み、この希少野生動物は絶滅の危機に瀕していた。20世紀70年代中期から80年代初頭にかけての野生動物専門家による統計では、ココシリと羌塘地区には百万頭以上のチベットカモシカが生息していた。
政府による近年のチベットカモシカ保護は大きな役割を果たしている。1997年、ココシリ国家級自然保護区管理局が設立された後、中央政府と青海省地方政府は資金、人力の投入を継続し、チベットカモシカ保護業務の基礎条件の改善に努め、該地区の生態環境に対する保護を強化すると同時に、保護区管理局は一貫して密猟摘発活動を堅持している。このたゆまぬ努力の結果、ココシリ地区の密猟は基本的に抑制され、チベットカモシカ復活に大きな役割を果たしている。
チベットカモシカ保護キャンペーンの推進とともに、チベットカモシカを北京オリンピック大会のマスコットにする申請活動も保護業務を促進している。チベットカモシカのマスコット申請以降、多くの有志が続々と平均海抜4000mのココシリ地区を訪れて、チベットカモシカ保護業務に参加し、そのボランティアの数はすでに200名を超えている。

<ココシリ国家級自然保護区管理局ツァイガ局長の願い > 「人民画報」2005年8月
http://www.rmhb.com.cn/chpic/htdocs/rmhb/japan/200508/8-1.htm
↑保護されたチルーが人間に馴れている写真があります。

●チルーの生態について、何らかの新情報がありましたら
  「かも板」(←「まうごてんのもくじ」から入って下さい)までお寄せ下さい。(まうご犬)

「ココシリ:マウンテン・パトロール」
(原題:Kekexili: Mountain Patrol 可可西里)
チベット自治区の秘境ココシリで、自然と野生動物を守る「マウンテン・パトロール」と、
チベットカモシカ(チルー)を狙う密猟者、そして美しくも過酷なチベットの大自然、
その3つ巴の壮絶な闘いを描いた感動的な実話の映画化。
プレスリリース
製作:コロンビア・ピクチャーズ・フィルム・プロダクション・アジア、
ヒューエイ・ブラザース、タイヘー・フィルム・インベストメント
配給:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
日本公開予定:2005年

この映画は「第17回東京国際映画祭 審査員特別賞」を受賞したそうです。
チルー保護の実態を全世界に伝える映画のようですね。
はやく見てみたいです。
(2005/03/10追記)
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その後日本での公開を待ちに待っておりましたが、
2006年6月、ついに全国14ヶ所の映画館にて封切られました。
「ココシリ」
近畿地区では大阪梅田の「三番街シネマ・3」にて7/8からの公開でした。
さっそく観に行きました。

ベースのストーリーは中国成都電視台が制作した「チベットカモシカを守れ」と
ほぼ同じなのですが、180日間にも及ぶ現地でのロケによる映像の美しさは圧巻です。
一回の密猟で殺されるチルーは500頭をこえる数。剥がれた皮の量に絶句します。
10万頭ものチルーが僅か2年で1万頭にまで激減する…そんなバカなと
思うかも知れませんが、事実この乱獲ぶりでは無理もありません。
パトロール隊員と密猟者の命がけの攻防、それぞれの人間が抱える問題の数々。
どちらが正しくてどちらが悪いのか、では片づかない 重くて、辛い話です。

しかし、ココシリの風景は素晴らしい。
是非映画館で、大画面で観ていただきたい、雄大な光景と厳しい気象の姿。
チルーがあの場所に生きているという奇跡にあらためて感動しました。
そしてチルーのために命を落とした多くのパトロール隊員たちに、
チルーを守ってくれてありがとうと、ただただ感謝するのみです。

多くの人々に観てもらって、チルーに限らず野生動物が絶滅の危機に瀕するとは
どういうことなのか、よく考えるキッカケになればいいと思います。
(2006/07/13追記)




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