笛吹ケトル


 
 やかんでお湯を沸かすというのは、炊事の真っ最中にはあまりしない。ガスコンロが二口のやつということもあって、フライパンと行平がコンロにかけられたらもう順番は後回しになる。で、途中味をみるわけでもないので、やかんはかけたらかけっぱなしで、他の作業をしているうちに案外やかんのことは意識から離れやすい(…のは、うちだけか?)。それは大変危険である、ということで、
笛を吹いて沸騰を教えてくれるやかんの購入を思い立った。


 世にやかんは数知れず売られているが、やかんなど一度買ったらそうそう壊れるものではないし、たくさんあればいいというものでもない。せっかく買うならよく吟味して、よりよいものを選んで一生おつきあいしたいと考えたのだった。熱効率のよい、持ちやすく安定した形、2P前後の容量、何より笛を吹く以上は笛の音がよいものであって欲しい。

 見た目の善し悪しや、機能面はなんとかお店で自分で判断できる。ところが、音はどうにも確かめようがない。メーカーは笛を吹かせる場合は音もプレゼンすべきだ!
 笛吹やかんを持っている友人を尋ね歩いては音色を聴かせてもらえど、なかなかいい音はなく、いい音でもそのやかんが廃番品で手に入らないということも。どこで買ったかわからないというものもある。本当に困った。
で、賭けにでることにしたのだ。



 「ドイツHOHNER社製のチュウニングプレートを使用」と有名ハーモニカメーカーの名をかかげた、ドイツのCHANTAL(シャンタール)というブランドやかんに賭けたのだ。値段は少々お高いが、デザインも勝手も良さそうだし。あとは「笛の音」。期待と希望に胸膨らませ、いざ、湯を沸かす…!

 …ああ、この向こう三軒両隣に轟きわたる巨大音量の二重和音よ…。うちが狭いのが悪いのだ、甲斐性なくてごめんよやかん、思いっきり笛を吹かせてあげられなくて、可哀相だと思ってるよやかん…。 とにかく
それはすさまじいボリュームで鳴ってくれるやかんだったのだ!
鉄橋を渡る蒸気機関車の警笛のようとでも言おうか。鳴り始める気配を感じようものなら、何は置いても駆けだしていってコンロの火を止めざるをえない、まったくあっぱれな、安全絶対保証のさすがドイツのやかんだったのである。


 もちろん、夜間、早朝にお湯を沸かすことはできなくなった…
やむを得ない場合は、沸騰するかしないかの瀬戸際で火を消すべく、コンロの前でじっと仁王立ちするのだった。もしくは、鍋で湯を沸かす…。
 ぴーぴー高音を出されるよりはましな音色はいいのだが、この賭けに勝ったとは…言い難い。



最近になってわかったのだが、CHANTAL社のホームページを開くと、その笛の音色を聴くことが出来る。
CHANTAL社ホームページ
http://www.chantalcookware.com/

…この情けない音を聴いたときは泣き笑いした。本物はこの100倍の音量であると思って欲しい。
デザインは気に入っているし、やかんを責める気はしないが、こいつを思い切り鳴らせられない日本の住宅事情が恨めしい…。

●●●追記
この記事を書いて数年後、もうちっとだけ広いマンションに引っ越しましたのです。で、このやかんの鳴り具合をさっそく検証しましたところ…えええー?そんなに気にならない!!つまり、やはり、問題は住宅事情、台所の広さにあったわけですね。ごめんよやかん。許せよやかん。前の台所は3畳ばかりの閉鎖されたというか独立型の間取りだったのがまたよくなかったのよね。今回はダイニングとつながったオープンな台所なんで多少広さにゆとりがあるのよ。それだけでこの違い。音量の検証は「標準的な空間で標準的に使用」するのが絶対条件ですよね…。このケトルの購入を検討されておられる方、台所の広さ・形態をよく把握してお考え下さいませ。

 


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