あひる三兄弟

             
 


 子供の頃から、ぬいぐるみを飾るシュミはないし、お金を出してまで買ってどうするのと思っているタイプの私が、たぶん生まれて初めて自分で買ったぬいぐるみがこの悪い顔のあひるである。てのひらにのる大きさといい、柔らかくてふにゃふにゃの感触といい、なかなかかわいらしい風情はあるのだが、なんといっても人形は顔が命。…しかし悪い。悪いとしかいいようのない顔である。

 友人三人と長島温泉(三重県)に遊びに行ったはいいけれど、おりしも接近中の台風にともなう暴風雨で目当てのジャンボプールは閉鎖され、遊園地は平日ということもあって私たち三人の他に人影もなく、静まりかえっている。幸い、遊具は動かしてくれるということで、暴風雨の中ホワイトサイクロンもフリーフォールも貸し切り状態…は良かったのだけど、二時間もしないうちにシャレにならんくらい雨風に叩かれて、しかたなく屋内のゲーセンやみやげ物屋をめぐることになってしまった。

 おきまりの子供向けのおもちゃが並ぶ棚の横に、色とりどりの動物のぬいぐるみを山のように積んだワゴンがある。うさぎやくまや象にイルカ、どれもふつうのかわいい人形だったのだけれど、友人のひとりがいきなり下の方から黄色いのを引っ張り出した。と、同時に私は目を疑った。その黄色いやつは私に向かってメンチをきりやがったのだ!

 ぬいぐるみ、しかもあひるに凄まれたのは初めてで、とても新鮮な感動をおぼえたのだ。見つけだした友人が買わないと言ったので私がそいつを買うことにした。ワゴン中をひっかきまわして他のあひるを探したのだが、あひるはそいつ一羽だけだったのだ。

 どの角度からみても悪い形相の顔だが、少し首を傾けた感じの上目使いがいちばんいい。あとから気付いたのだが、腹を押すと「ガガーガーガー」と、それはひどいダミ声できっかり三回もうめく。一度押しただけで三回、途中だれにもやつの悪声を止めることは出来ない。実に凶悪だ。おそるべしあひる。

 うちではこの悪顔あひるはアイドルである。絵に描かれステッカーになり、フィギュアまで作られた。フィギュアはキーホルダーの金具を付け、客人に贈ると妙に喜ばれる。
 顔の角度は毎日調整され、より悪くみえる顔の条件を研究された。

 そんなある日、こいつの発見者である友人が「ちょっとした土産がある」と言って持ってきたのが、あひる小である。家族旅行で泊まった旅館にあったらしい。材質も色も悪顔とまったく同じ物なのだが、パーツが微妙に違う。こいつの顔は貧相だ。鼻の穴もでかく強調されている。しかも頭頂のその毛はなんだ?なんにせよ貧乏浪人風であじわいがある。あひる小は悪顔の兄弟として迎えられた。

 しばらくして、山陽自動車道のとあるSAの売店にあひるのキーホルダーが置いてあるのを見つけた。またしても材質も色もパーツも悪顔とまったく同じ物だ。しかもこいつは腹を押すと、悪顔よりも高い悪声で「ぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあ」をこれまた三回繰り返す。兄弟だ!間違いない。こいつは兄貴の悪顔に比すればまるで悪くない顔なのだが、しかし、あまりにもマヌケ顔過ぎる。バカボン顔である。その丸すぎるくちばしは、もはや魚のカワハギである。点のような目に力は無い。何のとりえもない顔だが、兄弟キャラとしては「悪い長男、ボーっとした次男、抜け目無い三男」といったところか。

かくして、あひる三兄弟はうちで仲良く暮らしている。

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悪顔のあひるをモデルにして、いろいろ制作したものをこちらに展示してみました。
お暇な方、どうぞ見てやって下さい。
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(注意)
ここで言う悪顔とは、単純に醜いとかブスとかを
言ってるのではないからね。
可愛いとは言い難いけれども味があって、
キャラが立っていて(個性的で)、
独自の雰囲気を持っている…ってことだよ。


     

こいつが悪顔のあひるだ!



写真ではそう凶悪には見えないかもしれないが…。


どうよ、このふてぶてしさ!


こいつが、あひる小。貧相だ。

こいつが、バカボン顔。


あひる三兄弟、ああ、どいつもこいつも可愛くない。


首筋を掴んで持ち運ぶ。実にいやな顔をする。

 
             


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